無線従事者への道:第1級陸上特殊無線技士


[1陸特免許証の画像] 筆者の1陸特免許証。(悪用防止のため一部伏せております。)


「特殊」無線とは

特殊無線技士の「特殊」が一般に意味するところは、「特殊な操作しかできない」ということである。陸上、海上、航空系の3つに大きく分けられ、それぞれ、陸上の仕事、海の仕事、航空の仕事にて、無線を専門としない人に「特殊」な範囲に限定して無線の操作を認めるための資格だ。言い換えれば、旅客機でない小型の飛行機や、小さなプレジャーボートに、無線で飯を食うような専門家などいちいち雇っていられない。海にはまず海の専門家、航空にはまず航空の専門家がいてこそなんぼだ。無線の専門家が持つような資格と比較すると、操作範囲は狭いが、業務連絡などに最低限必要となる範囲の操作が許されており、無線の有効活用につながると言える。

しかし、「陸上」だけは勝手が違う。第2級や第3級の陸上特殊無線技士(2陸特、3陸特)は確かに上述のような、非専門家向けという性格があるのだが、今回筆者が取得した第1級陸上特殊無線技士(1陸特)は(2陸特以下の効力も持つことを抜きにすれば)別物と考えるべきである。上位に位置する資格の第2級や第1級の陸上無線技術士(2陸技、1陸技)と比較すると、放送波がオペレートできない、レーダの技術操作に関しても制限(2陸特と同範囲)がある、などの制限はあるが、目指すところは放送局や通信事業、行政機関などの中継回線のオペレートであり、無線通信の技術者(の登竜門)の資格である。しかし、これらは裏を返せば、社会に必要とされている重要なインフラであり、鬼のように難しい陸技よりは難易度の易しい試験で免許をし、オペレータを増やす趣旨があるという意味で「特殊」なのである。公衆が受信する放送波は、最高に高度な技術者によるオペレーションを求める意味で、陸技にしか許されていない一方、そうでない通信の電波は、もっと多くの技術者に門戸を開こうということである。かといって、難易度的に、決して1陸特は生やさしいわけではない。「特殊」とはいえ、操作範囲がプロフェッショナルである以上、試験の中身もプロフェッショナルである。1陸技や2陸技は工学3科目と法規の試験あわせて試験にまるまる2日を費やすのに対し、1陸特は工学と法規がチャンポンで半日の試験である。しかし、その中身は、きちんと勉強していないと歯が立たない。一部で「3陸技」などと言う人もいるが、うなづける。

意識づけ

さて、4アマの受験記で書いたように、筆者は電気系を専攻してきており、また現在携帯電話メーカーで技術者をしていることもあり、この業界に関係のある資格の登竜門として目をつけることとなった。とはいえ、筆者の職場の周辺では、時代の流れなのか、取得が表立って奨励されているのは情報処理系の資格がほとんどで、無線従事者の資格は職場の奨励リストのようなものに入っていない。(なお、1陸技などと試験科目免除の関係がある電気通信主任技術者はその奨励リストに入っていたりする。)しかし、いつ会社側の意向で、事情が変わるかわからない。自分の職場がいつ消えるかもわからない。そもそも、その「時代の流れ」で、オーディオ屋から電話屋にならざるを得なかった自分、いま目先で奨励されている資格でなく、自分のできることで勝負したい、そして「つぶしの利く」人間になっておかねばという危機感が強まる。(実際出願後、自分の会社の他地区の工場閉鎖の動きも出始めた。) そこで、まずは自分のいまの知識プラスαで取れるものから取ろう。それに、無線従事者の資格はいわゆる「業務独占資格」であり、これがないとできない仕事が世の中に存在する。一方情報処理は、資格がなくたって情報処理ができる。(決して情報処理の技術者を軽く見ているのでなく、あくまで免許証としての効力のことを言っている。)そういうわけで自分の中での順位付けが決まり、2004年4月、1陸特の試験の出願。勤務先の会社に、挑戦予定の資格を届け出るシステムがあり、総務省の無線従事者資格はレーダー海特と国内電信特以外、アマ資格含めてすべて入力可能なので、1陸特を記入。これをもとにした上司との面談時に自分の考えを説明。あとには引けない。とか言いながら、学生時代、半導体工学や電波の伝搬に関する科目は苦手であった。しかし、1陸特では避けて通れない。大学で取得した単位で取得できるかもとも聞いたが、めんどくさいので、別に普通に受験したっていいじゃないか。

試験勉強

そんな筆者は、ただ1つ、電気通信振興会の問題集のみを使用した。試験が2004年6月で、勉強開始が4月。願書購入・提出と同時に始まった試験勉強だ。問題集を店頭で見て、自分のいまの知識プラス2か月の試験勉強でいける、と判断した上での選択だ。実際勉強を開始してみると、工学2章の「基礎理論」や3章の「多重変調方式」は特につらく、また解答の解説も最低限で苦しいところもあったが、自分にとっては何とかなる範囲であった。勉強法としては、仕事に追われた平日は無理で、土日に電車に乗りながら(引きこもっていてはつまらないし、そのほうが落ち着くので)、まず自力で問題を解き、解答の確認をし、なんでそういう答えになるのかを理解する流れをとった。自分にはいくらかバックグランドがあるのだから、教科書や参考書などのような本を読んでから問題に取り組むより、まず問題にチャレンジし自力で解けなかった事柄だけを補う方が、結果として効率のよい勉強につながった。苦手だった電波の伝搬に関する問題も、「特殊」であるがゆえ30MHz以上、特にマイクロ波帯しか問題にならないので、気が楽だ。結局、いままでまともに学んだことのなかった、マイクロ波とかパラボラアンテナ特有の性質を、問題集の問題が解ける程度には習得できた。 法規は、そういうもんだと割り切って覚えるしかない。 アマチュア局では問題にならない主任無線従事者制度や、また初級ハムでは問題にならない高電圧、予備免許、電波の許容偏差関連、ほか電波の質関連に力を入れた気がする。1陸特は、特殊無線技士でありながら「電波の質に影響を与える」技術操作が許されている。それを認識することが、両科目の勉強のモチベーションにつながった。電波型式の表記については、現行表記で試験を受けるのは初めてというのもあるが、問題集では解説が不十分なので別途サーチエンジンで表記のルールを探して印刷して持ち運びやすくしたのを参考にした。多重無線のオペレータを目指すわけなので、真ん中の数字は7から9までにヤマを張るのは当然のこと。6月第1週あたりで、問題集をすべて終えた。試験は6月第2週なので、計算通りのぎりぎりな試験勉強となった。

そして、上にて電車の中で勉強したと書いたが、長時間乗り換えせずに座っていられる路線を選ぶのがミソである。首都圏在住者の特権、遠回りをしても運賃がそれほど発生しないような路線の選び方はいくらでもある。自分の住所に応じて、お得な勉強コースを選んでみよう。

試験に臨む

試験当日は平日だったので、なんとか休みを取り、通勤ラッシュにもまれながら東京・晴海の日本無線協会へ。本番では90分かけた。工学はもちろん、法規でも粘った気がする。工学では計算せずに解答できる問題だけでは、合格ラインに達しなかった。計算問題に慎重に取り組んだ。自分の計算結果が選択肢にないと、それは計算ミスを意味する。焦って計算し直す。こうしてたまたま計算ミスが判明することもあるが、間違った計算結果が選択肢にあったらと思うとぞっとする。法規では案の定、電波型式表記のF8EとF7Eを迷わせる問題が出たが、難なく正答。途中退出可能の60分を過ぎて多くの人が退出していったが、「自分は自分」と、あせらずに進めることができた。そして、無線協会による公式解答の発表を前に、某大規模BBSで自己採点をするなどして、結果、工学は21問正解、法規は10問(記憶あやふや)正解の合格。法規で粘るなんて、と言われそうな気もするが、わずかでも記憶を頼るのは大切で、結果として吉と出た。試験内容を見ると、新問題としてCDMA方式の電波の性質を問う問題があり、たとえ問題集にない問題であっても、この分野で飯を食っていく技術者なら当然知っておいてほしいという当局の親心が垣間見られる。ということは、陸技でOFDMの問題がいつ出てもおかしくない。(本当に出題されたが)試験勉強も大事だし、普段の自分の意識の持ち方も大切であることを実感した試験となった。

免許を手に

合格通知は、試験会場で言われたとおり、6月末日の30日に到着。すぐに住民票を確保し、確か7月1日か2日あたりに関東総合通信局に申請書を発送。なお申請用紙は無線協会用のものを使い、念のため無線従事者規則を見ながら記入。表の枠に入らない収入印紙は裏に貼る。他地域では1週間で来たなどという某大規模BBSへの書き込みに気をもみながら8月4日、ついに免許証が到着。発行日は7月30日。1日でも早く免許証が必要なら地方で受験するのもありだ。勤務先での筆者、直接この免許が必要な職場にはいないとはいえ、他の社員に電波法を遵守させる立場にあるし、今後なんだかの形でこの資格が活きるときが来るかもしれない。4アマと同じ真っ白なパウチの免許証であるが、その資格自体の重みをきちんと認識して仕事を進めていきたい。 そして、受験のために筆者を休ませてくださった、職場の周辺の方々には、感謝の気持ちでいっぱいである。 そして、次に目指す陸技は、この1陸特の上位資格であり、つまりは今回勉強したあらゆることがまた試験に出てもおかしくないということである。今回勉強したことを都度「引き出し」から出しながら、上を目指していきたい。


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